はじめに、ふた、ありき
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「30代の若者たちの労働意識について。属人的な能力や個性のレベルの問題ではなく、社会構造そのものが若い人たちの勤労意欲を傷つけているのではないか、というお話をしました。彼らは誰からも感謝も期待も敬意も向けられていません。それで元気出せって無理。 若い人たちに求められているのは「高い能力を安い賃金で発揮すること」「替えが効くようになるべく規格化されていること」「消費行動が均質的でコントロール可能なこと」です。殆どそれだけ。この雇用環境で自尊感情を維持することは絶望的に困難です。 グローバル化というのはこの雇用環境がさらに強化されることを意味しています。例外的に能力の高い人にとってはチャンスかも知れませんが、90%の若者たちにとっては遠い異国国の通貨危機や自然災害や政変で雇用条件がいきなり変わる(大抵の場合は労働条件の切り下げか解雇)だけです。 グローバル経済での労働者の最大の苦しみは「どうして自分の雇用条件が切り下げらてるのか、その理路が分からない(それを告げる上司も実はわかっていない)」という「ルールの分からないゲームで負けを宣告される不条理」にさらされることにあります。 「なぜ若者たちはデモをしたり、政治的要求を掲げないのでしょうか?最近の若いやつらは覇気がないと40代50代の上司は言いますが、そうなんでしょうか?」違います!覇気の問題なんかじゃありません。そういうバカの言うことは聴かなくてよろしい。 自分がどういうルールでゲームをしているのか分からない状態が長く続くと、人間は判断力を失い、それと同時に生きる意欲を失います。 若者たちが政治的行動を取れないのは、自分たちがどういう政治的文脈の中に置かれているか、どうすればこの窮地を打破できるのか、それをクリアーカットに語れる政治の言葉を持っていないからです。誰もそれを提示していないからです。 僕たちの時代にはマルクスウェーバーもロックもホッブズもルソーもいない。それが現代の不幸の大きな原因だと僕は思います。マルクスが今生きていたら「僕たちの知っているマルクス主義」とはまったく違う経済と政治についての指南力のある物語を紡いでくれたでしょう。 今必要なのは『後期資本論』(@高橋源一郎)だと思います。たぶんその中でマルクスは彼にとっての理想の生き方だった「農耕と釣りと狩りと《批評》」の日々を提唱するような気がします。 なぜ「ネット右翼」はいるのに「ネット左翼」はいないのか。どれほどチープでシンプルであっても「右翼」は「国民国家の相克」という世界を論じるスキームを持っています。でも、「万国のプロレタリア」を団結させる雄大なスケールの物語はもう誰も語れない。というような話を若い記者相手にしました。とりとめのない話で悪かったです。」(内田樹「グローバル経済において労働者としての若者はどういった状況下におかれているのか」) --------------- 「マルクス、ウェーバー、農耕、釣り」その他もろもろのことはひとまずさておき、「TPP以後の世界」が90%の若者たちにとって、ますます生きるよろこびの少ない不憫な時代になるというのはあたっていると思う。もし自分が「誰からも感謝も期待も敬意も向けられない」人生を強いられたら、なにを思い、どう行動し、どんな日々を送ろうとするだろうと、とりとめもなく考えてみた。たぶん自分は、農耕にも釣りにも狩りにも、そしてマルクス主義にもまったく興味がないので、旅に出るような気がする。いまから20年前、アフリカにでかけた時のように。そして今ならウォールストリートに行くと思う。(というか、行ってきたのだが)。
by illcommonz
| 2011-11-17 01:01
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