▼「メルトダウンの精神面への影響」
「臨床心理学で著名な高橋智氏は述べている。彼は、福島のメルトダウンの精神面への影響は、身体的な直接の影響より大きいだろうと予想している。「地震とは異なり、メルトダウンの被害者たちは不眠、震え、フラッシュバックといったPTSDの症状に見舞われません」と高橋氏は言う。そのかわり、放射線は 「低速で、じわじわと、目に見えない圧力を作り出し」、それが長引く欝を引き起こす可能性があるという。「死にたいと言う人もいます。飲酒量が増える人もいます。多くの人が何もやる気がしないと訴えます。」(ジョナサン・ワッツ
「福島の惨事:未だ何も終わってはいない」「ガーディアン」2011年9月9日)
臨床心理学のことはよく知らないが、文学的にいえば、「メルトダウンの精神面への影響」というレヴェルをとっくに通りこして、いまや精神そのものがメルトスルーしているような気がしてならない。この寄るべない感じをうまく表現できることばが、それ以外みつからない。たしか精神分析学(?)では、人がある対象に強い関心を持つと、仮にその対象が無生物であっても、無意識のなかでその対象に自己を投影し、それと同一化しようとする働きが起きるというので、メルトスルーした原発に自己同一化して、精神がメルトスルーするということがあってもおかしくはない。人の精神というものはそのくらい不条理で奇怪なものだ。もちろん臨床心理学的にいえば、そんなことはありえないのかもしれないが、それがいちばん実感に近い。そう考えれば、調子がわるいのもあたりまえの話だ。問題は、メルトスルーしてしまった精神をすくいあげ、もとにもどす方法で、それはたぶん文学の仕事になるのだろうと思う。
と書いたのは、去年の秋のこと。あまりに憂鬱で、陰々滅々とした文章なので、公開設定を「非公開」にしていたが、気の滅入りがいくらか安定してきたので、気分転換にアップしてみた(←どんな気分転換だ)。冬本番になると、寒さをしのぐために、睡眠時間がいつもにくらべて長くなるので、秋よりもかえって調子がよい。