
[左] 2010年2月 東京都立川市 [右] 2012年1月 東京都立川市
「朝の四時ごろ目をさますと、外が妙にシンとしてるので、「ふむ、さては、」と思い、テントから出て、外をみると、雪が降ってた。「ふむ、それでは、」と思い、お湯をわかし、厚着をし、コーヒーをいれた水筒とiPod をもって、散歩にでかけた。雪の降る夜道を音楽を聞きながら歩くのはたのしい。寝る前にいつもテントの中で聞いてる「冬の音楽」を、雪の降る夜道を歩きながら聞くのは、また格別である」。そう書いたのは、一昨年の二月のことで、今日、東京に今年はじめての雪が降った。夕方から降りはじめた雨の音がやんで、外がシンとしたので、「ああ、雪になったのだな」と気づいたが、今年は散歩にでる気にならなかった。どんなにこれまでと同じ雪景色にみえても、世界は変わってしまったのだ。雪に含まれる放射線量は、去年の夏、福島市で参加したデモの時に降った雨にくらべればずいぶん低いと思うし、一夜だけならそれを浴びてもよいと思うのだが、やはり散歩をする気にならなかった。なにより、雪景色をみても、心からきれいだと思えないのだ。そんなふうに世界は変わった。それはもう元にはもどらないし、もどすこともできない。散歩に出るかわりに写真を一枚だけ撮って、空間線量を計り、3.11からつけはじめた「原発事故で奪われたものリスト」に「雪景色」と書き加えた。

汚れちまった悲しみに
今日も小雪の降りかかる
汚れちまった悲しみに
今日も風さえ吹きすぎる
汚れちまった悲しみに
たとえば狐の皮衣
汚れちまった悲しみは
小雪のかかってちぢこまる
汚れちまった悲しみは
なにのぞむなくねがうなく
汚れちまった悲しみは
倦怠のうちに死を夢む
汚れちまった悲しみに
いたいたしくも怖気づき
汚れちまった悲しみに
なすところもなく日は暮れる
中原中也
3.11の前と後で、よみかたが全く変わってしまったこの詩が、今晩は特に骨身に沁みた。
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[追記]
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「福島原発で放射性物質の放出増加 内視鏡調査などが影響か」
「東京電力は23日、福島第1原発1~3号機からの放射性物質の放出量が毎時0・7億ベクレルとなり、昨年12月の同0・6億ベクレルから増加したと発表した。2号機の内視鏡調査の準備や3号機周辺の解体作業で放射性物質が舞い上がったのが原因と東電はみている。東電によると、1号機の放出量は昨年12月の5分の1程度に下がったが、2、3号機でそれぞれ0・1億ベクレル増えた。」(共同通信 2012年1月23日)