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いる・こもんず 【普通名詞】 01| ありふれて変なもの 02| 扱いにこまる共有物 03| 分けても減らぬもの 04| 存在とは常に複数で他と共にあり、狂えば狂うほど調子がよくなる
はじめに、ふた、ありき

イルコモンズ編
見よ ぼくら
四人称複数
イルコモンズの旗
(Amazon.comで
大絶版廃刊中)
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▼メタボリスムの毛ぶかさ
今朝のこと。「ファックスが26枚届いてますよ」というメモあり。
え、でも、最近そんなに長い原稿を書いた覚えはない...ので、
「なにかしらん?送信エラーじゃないのかしらん?」と思って、
様子を見に行くと、それは、建築家の黒川紀章さんの
ところから送られてきたもので、26枚ではなく、
全25頁の声明文の写しと、送り状1通でした。

作家自身の名前で書かれた「(取扱注意)」の但し書きのある、
その「声明文」はつまり、この件に関するものでした。

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[アスベスト汚染報道]
「新潮社など相手に黒川紀章さん提訴」(毎日新聞社)

「アスベストで汚染されたマンションの保存を主張した」などと週刊
新潮に報じられ名誉を傷つけられたとして、建築家の黒川紀章さんが
5日、発行元の新潮社などを相手取り、計1億円の損害賠償などを
求めて東京地裁に提訴した。併せて編集人と取材記者に対する
名誉棄損の告訴状を東京地検に提出した。

 訴えによると、同誌9月8日号は「住民を「激怒させた『黒川紀章』
の『アスベスト汚染』マンション」の見出しで記事を掲載。黒川さんの
設計で72年に東京・銀座に建てられたマンションの建物全体が
アスベストで汚染され、住民は建て替えも検討したが、黒川さんが
「世界遺産候補になっている」と虚偽の説明をして補修による保存
を主張したと報じた。

 黒川さんは会見し「以前から補修は提案しており、その後、一部に
アスベストの露出があると聞いたが、全体が汚染されているわけでは
ない。マンションは国際機関によって正式に世界遺産の候補に選ばれ
ているが、そのことを理由に補修を主張したことはなく、記事は悪質」
と訴えた。
-------------------------------------------

かかる記事で、「『アスベスト汚染』マンション」という、いかにも
スキャンダラスな、よごれた名で呼びすてられてしまった当の建物の、
そのただしい呼び名とうつくしい外観は、下にある通りで、
この作品は「メタボリズム」の思想にもとづいて設計され、
建設されたものです。

▼メタボリスムの毛ぶかさ_d0017381_17462141.jpg
▼中銀カプセルタワービル
 Nakagin Capsule
 Tower Building
 地下1階地上13階 
 設計:1969年~1970年 
 竣工:1972年



「メタボリズム」というのは、
建築を「新陳代謝するいきもの」と考え、
建築を「住む機械」と考えたコルビュジェに対し、
建築は"毛ぶかく"あらねばならぬ、とした思想ならびに
その方法論、および運動です。これは1960年代に
作家の黒川記章、菊武清訓をはじめ、浅田彰の
叔父さんで都市計画家の浅田孝、批評家の川添登、
グラフィックデザイナーの粟津潔らによって結成された
「メタボリズム・グループ」をオリジネーターとする
戦後日本発の前衛的建築運動です。

この「メタボリズムの生きたアイコン」ともいえる作品が
いま世間に蔓延するアスベスト公害の
その格好の「シンボル」であるかのように扱われ、
「アスベスト汚染マンション」という名前でもって、
アブジェクション的な恐怖の対象として
その標的にされてしまったわけです。

ただし、この件は目下"係争中"で、しかも、
高度にテクニカルな内容を含むものなので、
ここではコメントや引用は一切さしひかえますが、
送られてきた25頁の「声明文」に目を通した上での
結論として、今回の報道記事は、黒川紀章氏個人と
その作品の名誉はもちろんのこと、メタボリズムという
思想の名誉さえも毀損しかねないように思えましたので、
この件に関し、イルコモンズとしては、
不屈のメタボリスト・黒川記章を支援することを、
ここに声明してみることにしました。

「たたかう建築家」というと、日本ではまず、
宮内康のことが頭に浮かび、一九七〇年の
万博についていえば、それにもっとも深く関与した
黒川紀章と、それにもっとも鋭い批判を浴びせた
宮内康とでは、その立場も戦術もまったく正反対で、
建築をめぐるたたかいにおける、その光と影、
といえるくらい、その居場所の異なる存在ですが、
なんにせよ、一九六〇年代に、思想と言論と
その作品でもって、何かにたちむかうことをはじめた
作家たちというのは、本当にタフでダイハードで、
たたかうことをやめないのだなぁ、とつくづく
そう思いました。

見たところ、今回の週刊誌の記事は、
「建築会の巨匠が自分のエゴで作品を残すことに
執着している」という、ヒジョーにわかりやす~い
おなじみのストーリーテリングをキートーンにして
まとめられているようですが、でも、そこには、
アヴァンギャルドな作家としてのメタボリストの思考と
その持続するラディカリズムに対する理解が
すっぽり抜けおちてるように思いましたので、
昨年イルコモンズが建築批評家の五十嵐太郎と
一緒にやった黒川紀章氏へのインタヴューのなかから、
その一部をここに引用しておくことにします。

..............................

●小田:メタボリズムには「増殖・交換・分裂」そして「破壊」
という4つのモメントがある、とはっきりそう書かれています。
そうした意味でパヴィリオンの「破壊」は、メタボリズム建築
が必ずやたどるプロセスとして予めプログラミングされてい
たと思いますが、とはいえ、自分が設計したものが実際に
目の前で解体される場面に立ちあった時は……。

■黒川:破壊の意味は今の言葉ではリサイクルですね。
嬉しかったよね。だって他のパヴィリオンなんかは鉄玉を
ぶつけて壊してるでしょう。僕のだけは整然とボルトを外し
ていく。あれはやっぱりザマア見ろと思う。それはやはり
見事な壊れ方だから一個ちゃんともらったんだよ。《エッ
フェル塔》みたいに残るものもあるけれど、基本的には
オリンピックと違って万博は壊すということが原則になっ
ている。だから、ここでメタボリズムやらなければ、どう
するのよ。万博ってメタボリズムそのものなんだね。
そこで如何に美しく壊れるかというのを見せなきゃ。[中略]
僕は壊すことの美学は大阪万博で成功したと思ってる。

「都市、万博、メタボリズム~破壊と再生のプログラム」より」
..............................

というように、黒川紀章さんというのは、
破壊についてはひと一倍その心得があり、
なにより「共生」ということを半世紀以上にわたって
しつこく考えつづけてきた"毛ぶかい建築家"なので、
もし本当に壊す必要があると判断すれば、
たとえそれが遺産であろうと何であろうと、
ちきんと・ただしく・壊す作家だと思い、
そこには万全の信頼をおいているので、
今回の件についてイルコモンズは、
黒川紀章を支援します。以上。

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【追記】 後刻、黒川さんの秘書の方からレスいただきました。
「応援ありがとう」(黒川)とのこと。また秘書の方によれば、
「かなり奮闘しております」とのこと ←←これを読んで、
「国家の威信」だとか「日本人としのて誇り」なんかでなく、
こんなふうに、ひとりひとりが、自分でつくった思想や
作品や住まいのために奮闘し、「自分でたたかう」のが、
やはりいちばんだと改めてそう思いました。
by illcommonz | 2005-09-08 18:13
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