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いる・こもんず 【普通名詞】 01| ありふれて変なもの 02| 扱いにこまる共有物 03| 分けても減らぬもの 04| 存在とは常に複数で他と共にあり、狂えば狂うほど調子がよくなる
はじめに、ふた、ありき

イルコモンズ編
見よ ぼくら
四人称複数
イルコモンズの旗
(Amazon.comで
大絶版廃刊中)
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▼イルコモンズ「社会学特殊講義E」
▼イルコモンズ「社会学特殊講義E」_d0017381_3133038.jpg
▼イルコモンズ「社会学特殊講義E」
[時間] 2013年9月24日(火)14:50~(※毎週火曜)
[場所] 専修大学生田キャンパス7号館1階711教室

[第一講] 社会学を/から学ぶこと:コペル社会学「人間分子の関係、網目の法則」

 「めずらしい出来事がおこりました。叔父さんのところへ、コペル君から長い手紙が届いたのです。それは次のような手紙でした。

 叔父さん こんど叔父さんに会ったとき、話そうと思っていたことですが、手紙に書いたほうがいいと考えたので、この手紙を書きます。僕はひとつの発見をしました。でも僕が、ある発見をしたなんていうと、みんなはひやかすにきまっています。だから、僕は、これを叔父さんにだけお話しすることにします。お母さんにもとうぶんのうち言わないでください。 僕は今度の発見に「人間分子の関係、網目の法則」という名をつけました。その発見をどう説明したらいいか、僕にはまだうまくいえないんですけど、考えていった順番をお話しすれば、叔父さんは、分かってくれるだろうと思います。

 月曜日の晩に、僕は夜中に目が覚めました。なにか夢を見て目が覚めたほうですけれど、なんの夢だったか忘れました。目が覚めたら、どうしたんだか、粉ミルクのかんのことを考えていました。僕は、寝床の中で、オーストラリアの牛から、僕の口に粉ミルクがはいるまでのことを、順々に思ってみました。そうしたら、まるできりがないんで、あきれてしまいました。とてもたくさんの人間が出てくるんです。ためしに書いてみます。

(一)粉ミルクが日本にくるまで
 牛、牛の世話をする人、乳をしぼる人、それをに運ぶ人、工場で粉ミルクにする人、かんにつめる人、かんを荷造りする人、それをトラックかなんかで鉄道にはこぶ人、汽車に積みこむ人、汽車を動かす人、汽車から港へ運ぶ人、汽船に積みこむ人、汽船を動かす人。

(一)粉ミルクが日本に来てから
 汽船から荷をおろす人、それを倉庫にはこぶ人、倉庫の番人、売りさばきの商人、広告をする人、小売の薬屋、薬屋までかんを運ぶ人、薬屋の主人、小僧、この小僧がうちの台所まで持ってきます(このあとは、あしたの晩、また書きます)。

 僕は、粉ミルクが、オーストラリアから、赤ん坊の僕のところまで、とてもとても長いリレーをやってきたのだと思いました。工場や汽車や汽船を作った人までいれると、何千人だか、何万人だか知れない、たくさんの人が、僕につながっているんだと思いました。でも、そのうち僕の知っているのは、前のうちのそばにあった薬屋の主人だけで、あとはみんな僕の知らない人です。向こうだって僕のことなんか、知らないに決まっています。僕は、実にへんだと思いました。それから僕は、床の中で、暗くしてある電灯や、時計や、机や、畳や、そのほか、部屋の中にあるものを、次から次と考えてみました。そうしたら、とても数え切れないほどの大勢の人間が後ろにぞろぞろとつながっているのです。でも、みんな、見ず知らずの人ばかりで、どんな顔をしているんだか、見当はつきません。僕はこれはひとつの発見だと思います。僕は学校に行く途中や、学校にいってからも、なんでも手当たり次第、眼にいるものをとって考えてみましたけれど、どれもこれも同じでした。そして、数え切れないほど大勢の人とつながっているのは、僕だけじゃあないということを知りました。だから、僕の考えでは、人間分子は、みんな、見たことも会ったこともない大勢の人と、知らないうちに、網のようにつながっているのだと思います。それで、僕は、これを「人間分子の関係、網目の法則」ということにしました。僕はいま、この発見をいろいろなものに応用して、まちがっていないことを実地にためしています。まだ書きたいのですが、お母さんが、もうお寝なさいと言います。だから、報告はこれでやめにします。叔父さんは、僕がこの発見を打ち明けた最初の人です。

 人間のむすびつきについて

 コペル君 君の発見を、世界中の誰よりも先に、僕に打ち明けてくれて、どうもありがとう。僕はあの手紙を読んで、お世辞ではなく、本当に感心した。僕なんか、君ぐらいの年には、あんなことは思っても見なかった。君が発見したようなことを、はっきり考えられるようになったのは、高等学校に入ってからで、それも本を読んで教えられたからだった。君は「人間分子の関係、網目の法則」という名前より、もっといい名前があったらいってくれ、と手紙に書いたね。僕はいい名前をひとつ知っている。それは僕が考え出したのではなくて、いま、経済学や社会学で使っている名前なんだ。実は、君が気がついた「人間分子の関係」というのは、学者たちが「生産関係」と呼んでいるものなんだよ。(略)
 君が大きくなると、一通りは勉強しなければならない学問に、経済学と社会学がある。こういう学問は、人間がこんな関係を作って生きているということから出発して、いろいろ研究してゆく学問だ。例えば、時代と共に、この関係がどんなに変わってきたかとか、この関係の上に、どんな風俗や習慣が生まれてきたかとか、また、現在それがどんな法則で動いているか、などということを研究している。だから、君が発見したことというのは、こういう学問の上では、出発点になっていることで、実はもうとっくにわかっていることなんだ。こういうと、君は,さぞがっかりすることだろうね。せっかくの発見が、とっくに人に知られていたというんでは、つまんないあと思うかもしれないね。しかし、決してがっかりしてはいけない。人間はどんな人だって、一人の人間として経験することには限りがある。しかし人間は言葉というものを持っている、だから自分の経験を人に伝えることもできるし、人の経験をきいて知ることもできる。こうしてできるだけ広い経験を、それぞれの方面から、矛盾のないようにまとめていったのが学問というものなんだ。だから、いろいろな学問は、人類の今までの経験をひとまとめにしたものといっていい。だから僕たちは、できる限り学問を修めて、今までの人類の経験から教わらなければならないんだ。人類が進歩してきて、まだ解くことができないでいる問題のために、骨を折らなくてはうそだ。君が夜中に眼を覚まし、自分の疑問をどこまでも負っていった、あの精神を失ってしまってはいけないのだよ。それから最後にもうひとつ。

 君が生きてゆくうえに必要な、いろいろなものをさぐってみると、みんな、そのために数知れないほどたくさんの人が働いていたことが分かる。それでいながら、その人たちは君からみると、全く見ず知らずの人たちばかりだ。このことを君はへんだなあと感じたね。広い世間のことだから、誰も彼も知り合いになるなどということは、もちろん、できるることじゃあない。しかし、君の食べるもの、君の着るもの、君の住む家、すべて君にとってなくてならないものを作り出すために、実際に骨を折ってくれた人々と、そのおかげで生きている者とが、どこまでも赤の他人だとしたら、確かに君の感じたとおり、へんなことにちがいない。へんなことに違いないが、今の世の中では、残念ながらそれが事実なんだ。人間は、人間同志、地球を包んでしまうような網目をつくりあげたとはいえ、そのつながりは、まだまだ本当に人間らしい関係になっているとはいえない。だから、これほど人類が進歩しながら、人間同志の争いが、いまだに絶えないんだ。国と国との間でも、利害が衝突すれば、戦争をしても争うことになる。君が発見した「人間分子の関係」は、人間らしい人間関係になっていない。だが、人間は、いうまでもなく、人間らしくなくっちゃあいけない。人間が人間らしくない関係のなかにいるなんて、残念なことなんだ。たとえ、赤の他人のあいだにだって、ちゃんと人間らしい関係を打ち立ててゆくのが本当だ。これは、人類が今まで進歩して来て、まだ解決出来ないでいる問題の一つなんだ。
 では、本当に人間らしい関係とはどういう関係だろう。
君のお母さんは、君のために何かしても、その報酬を欲しがりはしないね。君のためにつくしているということが、そのままお母さんの喜びだ。君にしても、仲のいい友だちに何かをしてあげられれば、それだけで、もう十分うれしいじゃないか。人間が人間同志、お互いに、好意をつくし、それを喜びとしているほど美しいことは、ほかにありはしない。そして、それが本当に人間らしい人間関係だと、コペル君はそう思わないかしら。」(吉野源三郎「君たちはどう生きるのか」より抜粋)

▼イルコモンズ「社会学特殊講義E」_d0017381_3125156.jpg
http://www.flickr.com/photos/102874319@N03/with/9890262655/より

 「今日の少年少女こそ、次の時代を背負うべき大切な人たちである。この人々にこそ、まだ希望はある。だから、この人々には、偏狭な国際主義や反動的な思想を越えた、自由で豊かな文化のあることを、なんとかしてつたえておかなければならないし、人類の進歩についての信念をいまのうちに養っておかねばならない」(山本有三)
by illcommonz | 2013-09-24 03:21
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