![]() はじめに、ふた、ありき
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(「文化人類学解放講座」より)
![]() 「コヤニスカッティ」 KOYAANISQATSI (1983年) ▼世界を相対化する 映画「コヤニスカッティ」は、ふだん僕たちがまず目にする機会のない 途方もない速度や高度から「ち、き、ゅ、う」で起こっている出来事を 映像で見せ・体験させてくれる映画でした。それによって、僕らが あたりまえに暮らしている世界が、なにかそれまでとはちがったもの として感じられたのではないでしょうか。そしてたぶん、いろんな驚きや 発見、疑問もわいてきたかと思います。またそれはどこか、地球/世界を 異星人の目で見たような感じもしなかったでしょうか。そこで今回は、 文化人類学としてはやや番外編になりますが、いま僕らが生きている、 この地球/世界の歴史を、これまた途方もない宇宙の歴史のなかに 措いてみると、はたしてどのようなものにみえるのか、という話をしたい と思います。 ................................................................................ ▼コスモロジーと人類学 もともと文化人類学というのは、異なる社会/世界の文化や歴史を知ることを 通じて、自分の社会/世界の文化や歴史を相対的に考え、見直すための方法で、 それによって、それまで自分が持っていた世界観(コスモロジー)が、すっかり 変わってしまうということも、決してなくはありません。これからお話しすることは、 そうした相対化の「宇宙/世界版」のようなものだと思って、聞いてみてください。 ![]() カール・エドワード・セーガン Carl Edward Sagan (1934-1996) およそ150億年といわれる、途方もない宇宙の歴史を、もし仮に、365日の 1年のカレンダーに置きかえてみたら、そのなかでの、地球や人間の歴史 というのは、はたして、どの程度のものなのか? ................................................................................ ▼「コスモス」 ![]() 「コスモス」 COSMOS (1980年) 監修:カール・セーガン 音楽:ヴァンゲリス 「天国と地獄」 このユニークな思いつきを、実際に目でみて、実感できるかたちにして見せて くれたのが、天文学者カール・セーガンが考案した「コズミック・カレンダー」です。 これは、1980年に日本でも放映された科学ドキュメンタリー番組「コスモス」の 第一話「宇宙の浜辺で」と第二話「宇宙の音楽」のなかで紹介されました。 ![]() 「宇宙カレンダー」 Cosmic Calendar 1M=1,250,000,000年 1D=41,100,000年 1H=1,710,000年 1M=28,900年 1S=482年 それは映像で見てもおもしろいものなのですが、ただなにしろ、もう20年以上も前の コンピュータ・グラフィックスの技術を使ってつくられたものなので、その後すさまじい 勢いで進化したデジタル・テクノロジーのハイクオリティな映像を見慣れてしまった 目には、ローテクでアナクロなものに見えるかもしれません。とはいえ、逆にいえば、 目を驚かせるような圧倒的映像に目を奪われてしまうことがない分、そのシンプルな 映像には、見る側が冷静かつ主体的に想像力を働かせることのできる余地があって、 そういう意味でもおもしろいですし、またそれを見ると、非常にリアルでスペクタクルな イメージやヴァーチャルな映像というものが、実は知らないうちに、僕らが自分の 想像力でイメージをふくらませる機会や能力をそこなっているのだということにも 気づかせてくれます。そこで今回の講義では、映像を見る前に、それよりももっと ローテクな「語り」というメディアを使って、この「宇宙カレンダー」の話を紹介したい と思います。そしてそれは、こんなふうになります。 ................................................................................ ▼宇宙カレンダー まず「ビッグ・バン」がおこって宇宙が誕生した日を1月1日、だとすると、 銀河系ができたのはおよそ3月ごろになります。地球と月ができたのは、 それから半年後の9月14日です。その地球の「原始の海」で、最初の 生命体が誕生したのは9月25日で、バクテリアが発生したのは10月9日 のことです。 次にプランクトンが生まれて、三葉虫が現われたのは、それから、かなり 遅れた、12月18日になってからことです。12月21日には動物たちが、 ようやく陸にはいあがり、翌22日には最初の両生類が誕生します。続いて 23日には爬虫類が、そして翌24日には恐竜たちが現われます。それから 26日になると、哺乳類が現われ、鳥がはじめて空をとんだのは、27日の ことです。28日には、なんの前触れもなく恐竜たちが突然、絶滅し、その 同じ日に、地上に最初の花が咲きます。そして29日に最初の霊長類が 現われ、30日ごろから脳がどんどん進化をはじめて最初の類人が現わ れた後、12月31日に、遂に最初の人類が誕生します。時刻でいえば、 それは22時30分ごろで、それから後の、人間の歴史は、この最後の日の 残りの数時間のあいだに起こったことになります。 それはつまりこんな具合にです。まず23時59分20秒に農業がはじまり ました。同分35秒、新石器文明がおこり、最初の都市がつくられました。 同分50秒、エジプトに王朝ができ、天文学がはじまります。同分51秒、 アルファベットが発明され、バビロニアのハムラビ法典が書かれました。 同分53秒、青銅器の製造に成功し、ミケーネ文明が生まれ、トロイ戦争が おこります。同分54秒、鉄器が発明されると、アッシリアとイスラエルに 王国がうまれました。それと同じ時刻に、インドにアショカ王が、秦には 始皇帝があらわれています。 さて、残り時間は、あと5秒です。12月31日23時59分55秒、釈迦が 生まれます。そしてユークリッドが幾何学を、アルキメデスが物理学を、 プトレマイオスの天文学をおこします。ローマ帝国が成立し、同分56秒、 キリストが誕生します。インドでゼロの概念と小数点が発明されます。 同分57秒、ローマ帝国が滅び、マヤ文明とビザンチン帝国がおこります。 同分58秒、十字軍の遠征がはじまり、ルネッサンス文化が花ひらき、 大航海時代がはじまります。そして12月31日の23時59分59秒、 大航海時代から後の、あらゆる歴史上の事件や事故、発明や発見や 戦争やロマンスはすべて、この最後の、残り1秒のあいだにおこった ことになります。 そして、いま僕らが生きている、このグローバリズムの時代はというと、 12月31日23時59分59秒9999999999999999...(以下省略) と はてしなく微分化してゆく「9」のうちのどれかであって、僕らはその9の どれかを生きているということになります。そう考えると、そのゼロ・コンマ 999999999.....のなかのどれかにたまたま居合わせて、そこで共に 生きてるものたちに対する考えが、いくらかちがってこないでしょうか。 人種や国籍や性別に一体どれほどの違いがあるのかなんてのは、 もはや云うにおよばず、動物たちもまた同じ9の瞬間を生きてるものだし、 植物もまたそうである。それどころか、鉱物や細胞ですらそうであると、 これまでの人間中心の世界観(コスモロジー)やパラダイムが変わって こないでしょうか? このコズミック・カレンダーは、そういう途方もない 思考や想像の実験に僕らを連れ出してくれる、科学の文字と数字で 書かれた詩のようなものです。 ![]() ........ ..W.E.... A..R.E...... ...H...E.R.E..... ..A.B..OUT.S..... ..... ... 「ようやく星の子供たちは、母なる星について考えはじめたところなのです」 (カール・セーガン) ................................................................................ ▼コスモス ![]() 「それには想像力と懐疑心が必要です。想像することはかまいません。 想像と事実を区別することが、とても重要なのです」「COSMOS」より では次は、これを映像で見てみることにしましょう。といっても、「コスモス」は、 シリーズを全部通して見ると、10時間近くかかりますので、そのなかから、 「宇宙カレンダー」「生命のフーガ」「セーガンの悪夢」そして「アレキサンドラの 悲劇」などのハイライトシーンをピックアップし、最後に1990年に追加された 「COSMOS アップデート版のエンディング」を見てみたいと思います。 ![]() ▲宇宙カレンダー・・・・・宇宙時間というドラマの中での人間の歴史は、 一瞬のまばたきにすぎないのです。次の宇宙カレンダーの最初の1秒になにが 起きるかは、私たちが、いまここで、なにをなすか、にかかっているのです。」 ![]() ▲生命のフーガ・・・・・私たちは本質的に樹木と同じなのです ![]() ▲セーガンの悪夢・・・・・私も夢をみますが、それはぞっとするような夢なのです ![]() ▲アレキサンドラの悲劇・・・・一般に科学と学問は、一部の特権階級のものでした。 科学が大衆の想像力をとらえることはついにありませんでした。私たちは二度と このようなことをくりかえしてはならないのです。 ![]() ▲誰が地球のために語るのか?・・・・いまや、私たちは地球と自分の運命を 決定できる力をもちました。それは大きな危険性をひめた時代です。国家のために 語るのが誰かということは知っています。でも誰が人類のために語っているでしょう。 誰が地球のために語っているでしょうか。地球をひとつの有機体とみる、あたらしい 意識がうまれました。それは地球市民の生命と福祉をまもり、地球の将来にわたる 生存環境を維持することなのです。私たちは、ひとつの惑星の上にいるのです。 ................................................................................ ここでは、なぜ80年代のはじめに、このような作品がつくられ、しかも世界中で 放映されて多くの人が熱心にそれを見たのかについても考えてみたいと思います。 ちなみに「コスモス」と「コヤニスカッテイ」は、ほとんど同じ時期に制作された作品で、 それぞれの作家がこうしたドキュメントをつくった動機はほとんど同じだったといえば、 それでだいたいわかると思いますが、そのへんは自分の目で見て確かめてください。 そして、さらに、そこでは「つなぎあわせるパターン」を見つけだす目でもって、 後期の講義のテーマであるグローバリゼーションとのつながりを考えてみてください。 ![]() 文化人類学が、異なる文化や社会を知ることを通して人間とはなにかに ついて考える学問だとすれば、さしずめ天文学は異なる星や生命の進化を知ることを 通じて人間とは何かについて考える学問だといえます。人間、地球、テクノロジー、 そして学問と社会の関係について、どんなことを感じ、何を考えましたか。なにか 思ったことがあれば、試験のときに自分の答案のなかにもりこんでください。 最後に「コスモス」のシリーズのおわりの方に、こんなことばがでてきます。 「WE ARE ONE PLANET」 なんてことのない、ありふれたことばですが、シリーズを全部とおして 見終わった後では、このことばがとても輝いてみえます。残念ながら、 この講義ではシリーズを全部とおして見ることはできませんので、 この"PLANET"という単語を"GLOBE"ということばにおきかえて、 そこからもういちどグローバリゼーションの話のほうへおりかえす ことにします。 ......................................................................... [追記] ここまで話したら、ある歌を思い出しましたので、その歌詞をここに書き写して、 この話をおわりにしたます。 歌: われらはスペースエイジ、孤独を知ってる。 宇宙は巨大で、この世はちいさい。 声: これはいまだ人間に知られざる次元におけるものがたりである。 「スペースエイジのバラッド」 (作詞:鈴木慶一/長江優子) ![]() ........ ..W.E.... A..R.E...... ...H...E.R.E..... ..A.B..OUT.S..... ............. ......F..A...R.... ..F...R..O.M..... ........... T...H..E.RE...... .......... .. .
by illcommonz
| 2005-10-21 04:43
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