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いる・こもんず 【普通名詞】 01| ありふれて変なもの 02| 扱いにこまる共有物 03| 分けても減らぬもの 04| 存在とは常に複数で他と共にあり、狂えば狂うほど調子がよくなる
はじめに、ふた、ありき

イルコモンズ編
見よ ぼくら
四人称複数
イルコモンズの旗
(Amazon.comで
大絶版廃刊中)
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▼世界の周辺で起きている変化を想像する
「文化人類学解放講座」より)

▼世界の周辺で起きている変化を想像する_d0017381_803714.jpg
"新世界にて"
「おーい、みんな、おれたち、
発見されちまったようだぞ!」

(クリストファー・コロンブスに気づいたインディアン曰く)
ジョルジュ・ペレック『さまざまな空間』(1974年)より


今回の講義では、まず、前期の講義で見たトロブリアンド諸島のクラの
その後を取材したドキュメントフィルムを見ます。前期の講義で見たのは、
マリノウスキーのフィールドワークから約半世紀を経た、1970年代初頭の
クラでしたが、今回はそれから20年後の1990年代初頭のクラを見て、
そこに現われている変化を見ます。なおクラは、グローバリズムの市場経済
や貨幣経済との対比で、最近、よく耳にするようになった「ギフト・エコノミー」
(贈与経済)の有名な実例ですので、そうした観点からも見てみましょう。

▼世界の周辺で起きている変化を想像する_d0016471_139440.jpg
「クラ・島々をめぐる神秘の輪」(1991年)
Kula: Ring of Power
監督:マイケル・ベルソン
カラー 51分
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次に、先日の講義で見た映画「緑のアリが夢見るところ」の監督ヴェルナー・
ヘルツオークがブラジルで制作したドキュメント映画「失われた一万年」を見ます。
これは「10ミニッツ・オールダー」というオムニバス映画のなかの一本で、
ほんの数分間の出会いが1万年の時をとび越えるという話です。そして、
そのことが何をもたらすかを描いた作品です。

▼世界の周辺で起きている変化を想像する_d0017381_7375471.jpg

「失われた一万年」(2002年)
Ten Thousand Years Older
監督・脚本:ヴェルナー・ヘルツォーク
カラー 10分
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▼世界の周辺で起きている変化を想像する_d0016471_4303557.jpg
「死のまつり」(2002年)
The Festival of Death
制作・編集:ザ・レジデンツ
カラー 10分26秒

最後に、アメリカのマルチメディア・アート・ユニット、ザ・レジデンツが制作した
「エスキモー」という作品を見ます。この作品は1970年代後半に、メンバーの
知人であった(とされる)N・セナダなる人物が現地で録音した(とされる)音源と
写真をもとに「エスキモーの生活のロマンチックな再創造(re-creation)」として、
3年がかりで制作されたもので、はじめは1979年にLPレコードとして発表され
ました。エスキモーの儀式の音楽を模倣したこのアルバムの解説の最後には、
エピローグとして、こんな断り書きが記されていました。

                [おことわり]
  この作品で語られる話はすべて過去形で表現されています。
  なぜならこの作品のベースになっているエスキモー、とりわけ、
  北極エスキモー(イヌイット)の人びとは、政府の福祉政策に
  よって、一九六〇年代の後半に、その「悲惨な」生活環境から
  「救出」されてしまったからです。いまでは、北極エスキモーの
  人びとは、政府が支給したプレハブ住宅に一人残らず完全に
  移住させられ、一日中、再放送のテレビを見て過ごしています。


この作品は全くの想像の産物ですが、その裏にはこのエピローグに読まれる
ような批評がこめられていて、たとえば、それはこんな風に評価されています。

▼世界の周辺で起きている変化を想像する_d0017381_854570.jpgザ・レジデンツ
「エスキモー」(1979年)

「イヌイットから伝統的遊牧生活を
取り上げた、福祉政策という名の
善意を「エスキモー」は撃つ。この
アルバムにある人間性は徹底的に
冷徹だ」(湯浅学)

「レジデンツは極北に住むエスキモーたちの生活を独自のフレームで切り
取り、壮大なドラマを作り上げてゆく。異文化の学習を通じてレジデンツが
獲得したのは、再現/模倣の技術ではなく、想像力なのである」(小山哲人)

そして、その後もこの作品は、1980年、1992年、2000年と3度にわたって
再アレンジされ、そして2002年に、その決定版ともいえる映像つきのDVD版
がリリースされました。この2002年版の「エスキモー」では、インターネットを
通じて見つけたという国立機関(例:NOAAなど)の収蔵写真をもとに、異文化に
対するアーティスト的な想像力が遺憾なく発揮され、エキスモーの伝統的な
儀式と伝承の物語を、ロマンチック、というよりも、むしろロマンチック・アイロニー
(*失われた対象を回復し、もう一度それと同一化しすることを欲しながら、
決してそれはできないという矛盾した意識を持った精神的態度)的に「再創造」
して見せているだけでなく、いま、世界で起きているグローバリゼーションに
対する冷徹な視線と批評的なコメンタリーが、そこに書き加えられています。

▼世界の周辺で起きている変化を想像する_d0017381_2014252.jpg
また、2002年版の「エスキモー」には、ロバート・フラハティが1921年に
撮影した民族誌ドキュメント映画の古典「極北のナヌーク」に、レジデンツが
サウンドトラックをつけた作品が収録されています。このように過去の記録映画に
新しいサウンド・トラックをつけて批評的にリプロダクトするという試みは、
ほかにもポール・D・ミラー(aka DJスプーキー)による「国民の再創生」
「ウィークエンド」などでも見ることができますが、こうした実験については
いずれ紹介することにして*、「エスキモー」を見る際には、ヘルツオークが
「緑のアリが夢見るところ」に寄せて語ったようなペシミスティックな暗い予言を
文字通り視覚化したような驚愕のラストシーンをくれぐれも見逃さないように
してください。
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▼世界の周辺で起きている変化を想像する_d0016471_12265768.jpg
[左] 「国民の創生 Birth of a Nation 」(1915年) 監督:D・W・グリフィス
[右] 「国民の再創生 Rebirth of a Nation」(2002年) 編集:P・D・ミラー
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▼世界の周辺で起きている変化を想像する_d0017381_19464918.jpg
「極北のナヌーク」(1922年)
原題:Nanook 邦題:極北の怪異
監督:ロバート・フラハティ

「ナヌーク」(2002年)
音楽:ザ・レジデンツ

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1940年代に、パリ大学ソルボンヌ校の人類学部に所属し、人類博物館の
シネマテークに通いつめて数多くの民族誌映画を見たという、映画作家の
ジャン-リュック・ゴダールはフラハティのこの作品について、こう語っています。

「彼(フラハティ)は万事を演出するドキュメンタリストであって、
「極北のナヌーク」のどのショットも完全に演出されています」
(J-L・ゴダール)

▼世界の周辺で起きている変化を想像する_d0017381_4521535.jpg
こうした想像にもとづく異文化の
「再創造」やドキュメント映画の
なかの演出の問題などについては
異文化表象の問題として、また、
想像ではない現実のイヌイットの
現在の暮しと、その同時代文化に
ついては、講義の中でお話しします。

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[参考] 岸上伸啓「イヌイットとブリジッド・バルドーの関係」「民族学者の仕事場」より

岸上:食べ物がないんで生肉は食べますけど、とったばかりの血のしたたる生肉、
    とくにアザラシのは、よほど腹が減ってない限り、なかなか食べられなかった
    ですね。冷凍すれば、匂いはなんとか消えるので、ある程度平気なんです。
    だけど、生っていうのはやっぱりきついですね。カリブーはうまいですけどね。
  ─:とったばかりは、まだ温かい………
岸上:まだ温かいですよ。食べてたら口や手はみんな血だらけですよ。すごみが
    あります。
  ─:もしかして今はハンバーガーのほうがいいんですか。
岸上:子供たちはハンバーガーですね。おじいちゃんおばあちゃんは今でも肉類
    中心ですし、中年の人でもやっぱり、みんな子供のときに食べてますんで、
    生肉を食べます。だけどどっちが好きかとなると、ハンバーガー食べたり
    ピザ食べたりする人が多くなりました。だけど86年当時はまだ肉のほうが
    主流でした。
  ─:向こうの狩猟というと、イヌぞりなんかを想像するんだけど、そのころはなかった
    わけですか?
岸上:ええ、70年代を境にもうないですね。今は観光用とか、もしくは自分の楽しみ
    のために使うということで復活してますけどね。
by illcommonz | 2005-10-30 04:45
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