
ファシズムに傾斜していった時代の人びとのこころのありさまを分析したフロムは、あるところでこう書いていた。
「信ずるに足る人や物がなく、善と正義に対する信頼感がすべて愚かな妄想に終われば、人生が神よりむしろ悪魔の支配を受けているように思われ、その結果、人生は憎むべきものとなり、もはや失望の苦痛が耐え難くなる。人生は悪で、人間は悪で、自分自身は悪だ、と誰にでも証明したくなる」(エーリッヒ・フロム)
ということは、向きをかえて考えれば、

信じるに値する人たちとモノがそこにあり、意思と正義に対する信頼が確信に変われば、人生は悪魔よりも人の不断の努力に支えられているように感じられ、その結果、人生は尊いものとなり、生のよろこびにふるえる。人生はうつくしく、人間はいとおしく、自分は愉快だ、と人知れず思いたくなる。
ということになるはずだ。そのために、ひとは本をよみ、音楽をきき、映画をみるのだと思う。