(イルコモンズの「文化人類学解放講座」より)

最後の講義では、前期の
講義で見た映画のなかで、
最も反響の大きかった
「コヤニスカッテイ」の続編
にあたる「ナコイカッティ」を
見ます。「コヤニスカッティ」
が制作された1977年~
1983年当時の世界は、
いわゆる「東西対立と冷戦」
の時代で、まだ本格的な
グローバリゼーションが
はじまる前の時代でした。
今回見る「ナコイカッティ」
は2002年に公開された
作品で、まさにグローバリ
ゼーションのまっただなか
で制作されたものなので、
グローバリゼーションを意
識したつくりになってます。
と同時にそれは湾岸戦争や旧ユーゴでの内戦、そして9.11とアフガン戦争のさなかに
制作されたもので、「ナコイカッティ」とは、そうした世界情勢をうけてつけられたものです。
ホピ語のそのタイトルの意味は「互いに殺しあう命」「日常と化した戦争」「文明化された
暴力」です。「コヤニスカッティ」では、「熱い社会」(*人類学者のレヴィ=ストロースが、
いわゆる「文明社会」と「未開社会」という区別のかわるものとして提案した語)における
テクノロジーとそれによるスクラップ&ビルド、そして、めまぐるしいまでのスピードが、
さまざまな「実写映像」によって描かれていましたが、今回の作品では、過剰なくらい
デジタル処理された映像とコンピューター・グラフィックスが多用されています。ドキュ
メント映画でありながら、なぜ、そのような手法が使われたのか。それにはちゃんと
理由がありますので、ぜひそれについて考えてみてください。「いま最新のテクノロジー
は、どこに向かおうとしているのか、そして最新のスクラップ&ビルドはどこで起きてい
るか」がヒントです。なお、「コヤニスカッティ」の最後に、打ち上げに失敗したサターン
ロケットの弾頭が火を吹きながら墜落してゆくという印象的なシーンがありましたが、
あのシーンはギリシャ神話にあるイカロスの墜落(王から塔に幽閉されたイカロスは
鳥の羽根を蝋で固めて翼をつくって空を飛んで脱出するが、この翼の技術を過信し、
調子に乗ってあまりに高く飛びすぎたため、太陽の熱で蝋が溶け墜落して死ぬ)を
連想させるものです。(左上の絵は、シャガールが描いた「イカロスの墜落」です)。
一方「ナコイカッティ」では、映画の冒頭にブリューゲルが描いた「バベルの塔」が映し
出されます。バベルの塔は旧約聖書にある話で、この話が今回の作品を理解する
ヒントのひとつになりますので、それも頭に置きながら見てください。