「相手が誰であろうと、わけのわからない箱に入れさせたりはしない。
たとえ空が落ちてきても、大地が音を立てて裂けても」(村上春樹「蜂蜜パイ」)
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今日1月17日はイルコモンズが生まれてきた日なのですが、何の因果か、
この日にかぎって、よくないことが起こります。多国籍軍がバグダッドを
空爆して湾岸戦争がはじまったのも、この日だし、神戸で大地震が
起こって大勢の人が死んだのも、この日です。歴史をひもとくと、ほかにも
いろんなことが、この日に起きてはいるのですが、それはまた別の話で、
いくつになってもうれしい自分の誕生日の日に、こういうよくないことが
続けて起きてしまうのは、どうにも気が滅入るものです。そういうこともあって、
ここ数年、誕生日の日が近づくと「また何か起きるんじゃないだろうか」と
心配でしかたがなく、誕生日の当日は、とにかく何事もなくこの日が過ぎ
去ってくれることだけを願いながら過ごしてきたのですが、でも、考えて
みれば、一年に一度の、せっかくの誕生日をそんな杞憂でつぶしてしまう
のはつまらないことだなと思いなおし、誕生日前の数週間のあいだ、ある
空想をして誕生日を楽しむことにしています。その空想はどういうものか
というと、いまは1966年の冬で、もうじき自分がこの世界に生まれてくる
というのがそれです。空想というより、一種の思考実験のようなものですが、
これは結構たのしめます。キンと空気のさえきった寒い日の夜に外にでて、
1966年当時もたぶん同じような格好で同じような場所にあったはずの
月とか星座とか山とか線路とか電柱を眺めながらぶらぶら歩きまわって、
もうじきこの世界に自分が生まれてくるのを待っている、という状況を想像
するのはなかなかいいものです。自分の誕生を待ってるその想像の主体
が誰なのかは謎ですが、カタイ話はぬきにして、iPodで音楽を聴きながら、
じぃっと空想をめぐらせていると、そのうちおへそのあたりになにか温かみの
あるものが感じられてくるから不思議です。というわけで、もうじき夜が明けて、
あと何時間かするとイルコモンズの40番目の弟か妹が生まれてきますので、
どうぞよろしくおねがいします。
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[追記1] 自分の誕生日の日に起きた歴史上の出来事を調べるには、
下記のデータベースがおすすめです。
「この日のできごと」
[追記2] 今年いろいろ試してみた結果、寒いこの時期の空想には、ペルトの
この曲がよいようです。もうすぐ誕生日の方は、ぜひ試してみてください。
アルヴォ・ペルト「鏡の中の鏡 Spiegel im Spiegel」