はじめに、ふた、ありき
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今回は、民族誌映画の傑作中篇「クラ~西太平洋の遠洋航海者」(1971年)を見て、
「ギフトエコノミー(=贈与経済)」と、「もうひとつの可能な世界」について考えます。 ▼「クラ~西太平洋の遠洋航海者」(67分 カラー1971年) 監督=市岡康子 制作=牛山純一 ナレーション=久米明 音楽=佐藤勝 [映画解説] いま・ここにあるグローバリズムの世界と、そこでの生き方に疑問や問題を感じ、 グローバル・ジャスティス・ムーブメントを進めている人たちの合言葉のひとつに、 「もうひとつの世界は可能だ(another world is possible)」という言葉が あります。これは2001年にブラジルのポルトアレグロで開かれた「世界社会 フォーラム(World Social Forum)」で提唱されたもので、もともとはブラジルの ポピュラーソングから引用されたフレーズだといわれています。このフレーズは、 「金がすべて」「儲けるためなら何でもする」血も涙もない非情なグローバリズムの 世界に失望した人びとに夢と希望と、そして想像力を与えてくれるロマンティックな フレーズですが、現時点ではまだ、その「もうひとつの世界」の具体的なヴィジョンが はっきりと見えていないのが実情です。「考えられたプラン」はたくさんありますが、 その「考えられたプラン」が本当に実現可能であるという「実感」や「リアリティ」を 与えてくれる「生きられたサンプル」が不足しているのです。そうした「考えられた プラン」のひとつに、「ギフトエコノミー(=贈与経済)」というのがあります。これは グローバリズムのベースにある「商品市場経済」や「市場原理主義」にとって、 それに代わる「もうひとつの可能なエコノミー」です。これは利益の追求を目的と しない贈与(ギフト)を通じたもののやりとり/やりくりで、グローバリズムの世界で みられるような、ひとにぎりの人間だけに利益が集中し、ものが独占されてしまう アンフェアなシステムではなく、完全に公平な分配ではないにしろ、多くの人間が ものを共有し分有することのできるフェアなシステムです。こうしたシステムは、 全域的ではないにしろ、パーシャル(部分的)なシステムとして、いま・ここにある 世界の中でも実現されつつあります。特にコンピュータやインターネットの世界で その動きがみられます。具体例をあげれば、wikipedia やリナックスのオープン・ リソースソフト、青空文庫や無数のフリーウェアソフト、クリエィティヴ・コモンズ などがそうで、他にも著作権が消滅してパブリックドメインにはいった映画作品や 文学作品をインターネットを通じて共有するしくみがつくられつつあります。 これからさらに著作権者が権利を気前よく手放し、企業が囲いこみをやめれば、 このギフトのサークルは拡大してゆくのですが、なかなかそうならないのには、 いくつか理由があります。まず、そのひとつは、権利をみずから喜んで手放し、 囲いこみを進んでこわすインセンティヴ(動機づけ)が十分にないからです。 では、そのインセンティヴをつくるにはどうしたらよいか。そのヒントは、クラに あります。クラはニューギニアのトロブリアンド諸島で、幾世代にもわたって 持続的に行われてきた、非常に洗練され成熟したギフトエコノミーのイベントで、 これをみれば、ネット上のギフトエコノミーに欠けているのが何か分かると思います。 もったいぶらずに先に答えをいえば、それはギフトをめぐるロマンとドラマであり、 ギフトをめぐる物語や偉人伝や伝承や説話が欠けていて、それでいまひとつ ギフトに対するインセンティヴがあがらないのだと思います。さらにいえば、 そうしたロマンや物語をオーガニック(有機的)にまとめあげる想像力と コスモロジー(世界観)も欠けているのですが、それはもっと先の話で、 ともかくまずは、ギフトエコノミーの「生きられたサンプル」としてのクラの ロマンにふれてみるのがよいと思います。そうすれば「もうひとつの世界は 可能である」というロマンからさらに一歩進んで、「もうひとつの世界はとっくに/ いつでも可能だ」という「もうひとつのロマン」を持てるようになるかもしれません。 もともと文化人類学は、科学のふりをした詩のような学問で、きわめてロマン 主義的な学問だったのですが、科学としての体裁をととのえるためにロマン 主義をすてた頃から、ちょっとづつ退屈になり、ロマン主義と批判されるのを おそれるあまり、ロマン的なものをより一層避けるようになって、ますます つまらなくなりました。もちろんロマン的でないものをロマンチックに語るのは ただしくないことだと思いますが(とはいえ、それは決して「悪」ではない)、 クラのようなそれ自体がロマンチックなものは遠慮なくロマンチックに語って よいと思いますので、今回ばかりはそういう目でこの映画をみてみてください。 見終わったら、きっと「わたしもクラをしたい」という気になると思いますから。 [自由研究] 文化人類学の基本は、異なる文化の比較と、それによる自文化の相対化です。 グローバル市場経済のなかで生まれた米国の巨大企業エンロンの崩壊を描いた ドキュメント映画「エンロン」に登場するトレーダーとクラのトレーダーを比較して、 市場経済と贈与経済のちがい、交換の速度のちがい、幸福の尺度のちがい、 価値観のちがい、想像性のちがい、持続可能性のちがいなど、エンロン文化と クラ文化のちがいを考えてみましょう。 [参考映像] ▼「エンロン~巨大企業はいかにして崩壊したのか?」(2005年)予告篇 (監督=アレックス・ギブニー ナレーション=ピーター・コヨーテ) [参考文献] 市岡康子「KULA・貝の首飾りを探して南海をゆく」 2005年 コモンズ 講義に出席して映像をみれない方は、上記の本で、 この映画のシナリオ全文と監督自身によるメイキング 解説が読めますので、どうぞそちらをご覧下さい。
by illcommonz
| 2006-12-13 06:57
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