「つい先日、訪日して講演をしていたスティグレールだったが、『現勢化』を読んで、その経歴に驚嘆した。訳者の解説によると、スティグレールは高校を中退して共産党に入党、その後、ジャズ喫茶を開き、資金繰りに困って銀行強盗をしたのだった。そして五年間の禁固刑のうちに、知人の哲学者の導きもあって、獄内で思考の営みを積み重ね、やがて哲学に深い関心をもち、通信教育で大学の学位を取得する。出獄とともにデリダに手紙を書いて、その指導のもとに博士論文を書き、その後、メキメキと頭角を現したのだという。この『現勢化』という書物は、スティグレールが、銀行強盗をせざるをえないような逼迫の後に、孤独のうちに思考することによって、いかにして哲学者に「なった」(現勢化した)かという物語である。」(中山元「哲学が形成される場へ~他者の不在と顕在の奇妙な関係の中で」「週刊読書人」2007年10月5日号より)
デリダ好きのイルコモンズも愛読してるベルナール・スティグレールだが、スティグレールの過去の経歴に「政治犯罪」ではない「犯歴」(銀行強盗)があること、そして「一年以上懲役に服したこと」(禁固5年)があることはスティグレールの読者なら、たいてい知っている。そのスティグレールは、これまで何度か「訪日」して、「東京大学」の「シンポジウム」で講演を行い、「ラウンドテーブル」にも参加している。ウソだと思うなら、これをみてほしい。
▼国際シンポジウム
「技術と時間~ハイパー産業時代に立ち向かう哲学
ベルナール・スティグレールの思想をめぐって」
シンポジウム「精神のテクノロジー、精神の政治学」
12月18日(日) 東京大学教養学部18号館ホール
○基調講演「ハイパー産業時代に立ち向かう哲学(仮題)」
ベルナール・スティグレール(哲学者/IRCAM所長)
○ラウンドテーブル「文化産業批判の現在」
ベルナール・スティグレール、小林康夫、
石田英敬、吉見俊哉、北田暁大ほか
それなのに、同じ哲学者であり、しかも同じ入国管理法のもとにあって、どうして今回(2008年)、ネグリは「訪日」できなかったのだろう?と誰が思わざる。誰が外務省や法務省に指図したのだろう?と誰が思わざる。いったい今年、日本では何があるのだろう?と誰が思わざる。その答えはもうじき刊行される「現代思想」のネグリ特集などにきっと書かれるはずなので、ここでは措くが、どう考えても今回の件は、国際的な思想弾圧であるのみならず、ある明確な意図をもったネガティヴ・キャンペーンだと誰が思わざる。思わざる。思わざる。